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クラウディアン社 CEO マイク・ツォ氏

クラウディアン社 CEO マイク・ツォ氏

(マイク・ツォ氏 クラウディアン社のテーマカラーである緑色で塗られた社内の壁面には、成績優秀者を讃える盾と社員全員の写真が掲示されている)

このコーナーでは、「シリコンバレー・インサイダー」へのインタビューシリーズを掲載します。

第一回は、クラウディアン社のCEO、マイク・ツォさんにお話を伺いました。クラウディアンは、ソフトウェアデファインドのオブジェクトストレージ製品を提供しています。「日米ダブル本社」体制で米国でも成功しつつある、日本発ベンチャーとしてはユニークな存在です。2016年10月に約41億円の資金を調達しました。資金調達も日米双方から行っています。

マイクさんは、MIT卒業後、インテルとインクトミ勤務を経て、2001年に太田洋氏とともに、クラウディアンの前身であるジェミナイ・モバイル・テクノロジー社を日本で創業しました。ジェミナイは、モバイル・メッセージング用ソフトウェアの会社で、ドコモなどモバイル通信事業者向けに販売していましたが、2010年に資本再構成を行い、クラウド・ストレージ用ソフトウェアを提供するクラウディアン社として再創業しました。

Q:  米国市場に参入したのはいつですか?

製品を売り始めたのは2012年頃ですが、エンジニアリングは常にアメリカでやっていましたので、アメリカの拠点はずっとありました。ただ、日本が最初の市場であったということです。

前身のジェミナイのときから、常に日本ドメスティックではなく、グローバルに事業を行うという企業DNAがありました。現在も、世界全体のサポート部門は東京、セールスエンジニアのトップはイギリスにいます。

Q:  グローバルな事業体制を維持するために、何をやっていますか?

四半期から半年ごとに、各地のリーダーがどこかに集まって2-3週間一緒に過ごします。幹部だけでなく、平社員であっても、出張にはゆとりを持たせて、現地の社員や市場に触れる時間があるようにスケジュールを組ませ、予算を割り振っています。他の日本企業では、こうしたところに予算をあまり回さず、スケジュールが厳しいことが多いですが、上級幹部が現場で過ごす時間は大切です。

Q:  日本市場オンリーとグローバル市場向けは、何が違いますか?

日本市場は、規制や顧客からの要請が厳しく、グローバルな標準とは違う機能が必要になることがあります。最初の会社ジェミナイでは日本向けにまず作りこんだので、他国向けには結局別のものを作らざるをえませんでした。それでクラウディアンでは、最初からグローバル向けに設計し、場合によっては日本のお客様の要求を押し戻しました。日本市場の要請をヒントにして機能に取り込む場合もありますが、他の市場にも適合できるスケーラビリティがあるかどうかをテストしてからになります。おかげで、クラウディアンでは、最初の日本市場からグローバルへの展開がより早くできました。最初からグローバル市場を念頭においておくことは重要です。

ただ、この公式がいつも適用できるとは限りません。最初の会社を立ち上げた時期が、2001年の同時テロと重なってしまい、ベンチャーキャピタルから資金を調達することは不可能でしたので、初期のお客様への売上が早く欲しかったという事情がありました。今回は、ベンチャーキャピタルから資金を調達し、数多くのお客様に販売することが可能でしたが、一方でカスタマイズが必要なお客様を一部失うこともあり、それはもう仕方ないと割り切っています。全くゼロからの立ち上げと、2度目の挑戦では経験値が違うということもあります。

Q:  社長の太田洋さんと知り合ったきっかけを教えてください

私と太田さんは、ある意味で両方ともCTOです。彼は、以前Jフォンに勤めており、私はJフォンに売り込むベンダーの立場として知り合いました。新しいビジネスチャンスを察知して起業を思い立ち、我々二人で創業しました。

太田さんは、日本人としては(よい意味で)クレイジーです。(笑)40代で企業に勤めていて、養うべき家族がいて、ベンチャー創業のリスクをとるという決断はなかなかできないものです。シリコンバレーでは当たり前のことなので誰も気にしませんが、日本でそれができたというのはやはり普通ではなかなかありません。

Q:  日本人CTOがグローバルなCEO候補と知り合うにはどのようにしたらよいですか?

多くのCEOは、最初からCEOだったわけではありません。技術畑からCEOへと成長するケースはとても多いです。だから、わざわざ外からCEOを雇う必要は必ずしもなく、技術屋の創業者がCEOの仕事を覚えていくことも可能です。

私自身もそうで、周囲のメンターたちの助言のおかげで、CEOの役割にだんだんとなじんできました。会社のアドバイザーとして、過去CEOであった人たちなどに参加してもらっています。

よくありがちなのは、自分の「欠点」に注目しすぎることです。だれでも、自分の得意なことをやっていたほうが成功しやすいので、そこにフォーカスすべきです。CEOにもいろいろなスタイルがあるので、自分のスタイルでやればよい、というわけです。自分でも、だんだんとそれがわかってきました。

失敗しても大丈夫です。新しいことを試してもよいのです。失敗すれば、その教訓を次の成功のタネにすることができます。

グローバル事業をやるだけのために、外からCEOを雇うのはリスキーです。最終的には自分でやらなければ理解できません。私自身も、ジェミナイ時代に日本に数年間居を移しました。自分で市場を体験しなければわからないことが多すぎるからです。家族には苦労をかけてしまいましたが、どうしても必要なことだったのです。

このあたりは、魔法の解決法はなく、試行錯誤するしかありません。

日本のベンチャーでは、例えばスマート車椅子のWHILL株式会社がその例で、創業者がこちらに移ってきています。

Q:  太田さんとマイクさんは、どのように役割分担しているのですか?

太田さんは東京オフィスを担当、私はグローバルのCEOという分担です。毎週、必ず話すようにして、どちらも全体像が見えるようにしています。

太田さんは今、ディープラーニングに注目していて、電通とのプロジェクトをやっています。ディープラーニングでは大量のデータが必要なので、ストレージのニーズも高く、同じようなことをアメリカでもやろうと考えています。AI向けの統合ストレージ・プラットフォームですね。

Q:  日本とグローバルの両方から投資を受けています。グローバルなベンチャーキャピタルから資金の提供を受ける理由と、最も苦労した点を教えてください。

最初は日本の株式会社(KK)として設立したので、少々難しかったです。ベンチャーキャピタルはデラウェア法人(訳注:米国では州により会社法が異なり、デラウェアは投資家の自由度が最も高いために、大半のベンチャーはデラウェア法人として会社を設立する)であることを好みます。そうでなければ実際に違いがあるというよりも、多くのベンチャーがやってくる中で単純に「足切り」基準として使われてしまうのです。

それから、アメリカで知名度の高い優良顧客の名前が必要です。たとえ日本でNTTドコモに販売していても、アメリカの会社ではないので、無視されます。

しかし、ベンチャーの資金調達は、家を売ることに似ています。美人コンテストのように多くの人に好かれる必要はなく、たった一人のバイヤーを見つければよい。そのプロセスは、実はかなり感情的なもので、その相手の関心事や分野で、相手の心にうまく刺さるかどうかが問題です。

ですから、宗教のように、ひとつのメッセージを訴え続けて、もしうまく刺さらなければ、次に行けばよい。そして、毎回だんだんとうまく表現できるようにするのです。

ただ、アメリカでの資金調達と、日本を含むアジアでは少し事情が異なります。一般的にアジアの投資家は、プロセスに時間がかかり、長期的な関係をつくることを好みます。例えば、クラウディアンでは株式会社 産業革新機構との話に1年の時間がかかり、Bラウンドで始めたのに、結局決まったときにはCラウンドになってしまいました。

これは、アメリカではベンチャー投資家の数が多いために、「数撃ちゃ当たる」的なアプローチが可能なのに対し、アジアでは投資家が少ないのでそれができない、という事情もあります。一方で、日本では一度投資してもらうと、長期的な関係を築きやすいという利点もあります。

Q:  これまでの事業で最も大きな転換点は何でしたか?

まず、2011年の東日本大震災です。クラウディアンは、地震発生の数時間前に、分散ストレージのプロダクトを発表したばかりというタイミングでした。それで、通信事業者が地震後一斉に問い合わせを入れてきました。

次が2015年半ばです。それまでは、なにせベンチャーですから、営業マンが積極的に外に売りに行くという体制ではなく、インバウンドの問い合わせに対応しているだけでしたので、お客さんは大手のIT企業の専門知識のあるIT担当者が、探し出してやってくる、という状況でした。ところが、2014年頃から、IT以外の例えば化学や半導体企業などや、より規模の小さい企業からも問い合わせが入り始めました。メジャーな部分でも注目されるようになったという風向きの変化を感じたので、私は投資家たちに連絡をとり、営業マンをもっと雇いたい、人に投資したいとお願いしました。そのおかげで、2015年から16年にかけて、年率300%という成長を記録しました。

今年は全体の売上のうち、日本の構成比は20%ぐらいになり、来年は10-15%程度になるでしょう。日本も増えているのですが、日本以外の売上が大きく伸びたためです。

最初のうちは日本の販売資料を英訳したりしていましたが、やはりそれぞれの市場に合ったストーリーを作らなければいけないので、各地の営業マンが自由に作ります。各地で、ストレージやデータベースのマーケティングの営業マンとして優秀な人達を雇っています。

Q:  グローバル事業で人を雇う場合に気をつけることは何ですか?

「自分よりも賢い人を雇わなければいけない」ということです。そして、細かいことまで上がケチをつける「マイクロマネージ」を避けることです。

従業員は私よりも賢いのですから、私は命令するのではなく、質問するだけです。そして、目標は70-80%程度達成するように設定するのがベストです。100%を要求すると、低すぎる目標を設定することになりかねず、逆に高すぎる要求をすると、失敗を許容できません。

部下が賢すぎると自分の地位が脅かされるという心配は、日本だけでなく一般によくあることです。しかしベンチャーの場合、突き詰めると自分のほうが会社の株をたくさん持っているので、心配することはありません。

Q:  ストックオプション支給はどのようにしていますか?

現在、クラウディアンはアメリカに持株会社があり、各国の事業会社を傘下にもつ体制にして、従業員のストックオプションは持株会社のものを支給しています。

最初は日本法人のストックオプションを使っていましたが、実はアメリカのものとそれほど違いはありません。税法が違うのでそれに合わせていますが、大したことはありません。日本法人が米国に進出して、米国のストックオプションが出せないから優秀な従業員が集まらないというのは言い訳に過ぎません。

日本の従業員はあまりストックオプションを欲しがりません。しかし、「会社のオーナーとしての感覚」を持つべきだと思うので、日本企業のリーダーは従業員に対してこの点を教育する必要があると思います。会社が成功したら、一握りのトップだけが大金持ちになるというのは正しくありません。

Q:  日本国内で起業を目指す学生に対してメッセージをお願いします。

第一日目から、グローバルにモノを考えましょう。あとで考えるでは駄目です。

そして、そのためには、実際に外に出かけていって人と話をしましょう。

日本の企業幹部は、どれだけの時間を東京本社で過ごすかが大事になってしまっていますが、それを逆にしなければなりません。ただじっと座っていては何も起こりません。

海外に行くことが特別なことでないようにしましょう。行った先で、仕事以外に楽しいことをする時間も十分あるというのが当たり前になれば、「出張が楽しみのための口実」ということはなくなります。

我が社の次の幹部ミーティングは、日本でやるのですが、山梨県の温泉で開催することになっています。旅館の畳敷きの相部屋にみんなで泊まるので、欧米のメンバーは文句を言っていますが、そこで一緒に日本式を体験するのは貴重な経験ですから、やってもらいます。楽しみです。

 

(聞き手: NICT グローバル推進部門統括 西永 望)
(協力・構成:Blue Field Strategies 海部美知)

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