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■1994年の端末自由化以来、携帯電話市場はピーク期で年間1000万台の純増(加入者ベース)という驚異的な水準で拡大してきた。そうしたなか、ここ2〜3年前から囁かれ始めたのは、加入者数が「どのくらいの上限で、いつ頃からフラットになっていくのか」ということだった。
振り返えれば、今まで「8000万台が限界」「8500万台まで伸びる」「上限は8900万台」といった、“天井”を巡る諸説がことあるごとに取り沙汰されてきた。が、すでに8000万加入は2003年度で突破した。2004年末には8500万加入も超えることとなり、いずれ9000万の大台に乗ることも時間の問題だろう。とはいえ、そろそろ国内就労者ベースでほぼ100%を超え、残された新規需要層を考えると、今後の純増数は急下降することに違いはない。2005年度以降、年間加入純増数は年々ほぼ半減していくものと予想される(図1)。
普及の上限に向かうなかではあるが、法人市場の本格的な開拓や「M2M」(マシン・ツー・マシン)分野への今後の応用などを考えると、そろそろ対人口普及率を前提にした、加入数の上限を巡る議論の意義は薄れていくかもしれない。
これからは全体加入数という物差しよりも、むしろその中身がどのようになっていくのか――という点にこそ、携帯電話市場/業界の「これから」を見通す重要なポイントが隠されている。
図1 携帯電話/PHSの純増数推移および予測(1994年度〜2008年度)(クリックで拡大)

※1994〜2003年度は実績、2004〜2008年度は予測
出典:情報流通ビジネス研究所「モバイルインターネット要覧2004-2005」
(http://www.isbi.co.jp/report/mi-yoran/mi2004/)
■それまで目の前にある大きな金鉱を、とにかく掘り続けてきた移動通信業界は、携帯電話とインターネットの接続をひとつの節目として、ビジネスの質的転換を図るようになってきた。とりわけインフラの血液交換、すなわち音声アプリケーション中心の第2世代から第3世代への移行を本格化し、付加価値の高いマルチメディアサービスを提供するための、新たなビジネスプラットフォーム作りには余念がない、といったところである。
年間新規加入が1000万台オーダーだった頃の事業形態を、目前の獲物を追いかける“狩猟型”とするならば、さしずめ現在は、新たな収穫を得るための種蒔きと育成にいそしむ“農耕型”マーケティングが求められてきている。3Gネットワークへの大シフトとは、新たな事業機会を自ら育てるための種を蒔く畑作りに他ならない。
そして、もはや加入の総台数が限定的になってきた環境の下では、畑の肥沃さを維持していく必要がある。その意味では目の前の獲物、換言すれば短期的なビジネスチャンスの刈り取りにいそしむだけの事業展開に終始することなく、中長期の視座に基づく技術開発やビジネスモデルの構築に、重きを置いた戦略が大切になっていくだろう。要するに目先のビジネスを追い求めるだけでは、事業としての継続性や安定性は今後ますます確保しづらい市場環境が、遅かれ早かれ到来しようとしているのである。
目前の獲物は誰の目にも映るわけで、最終的には過当競争に陥り、事業としてのウマ味が薄れることはもちろんのこと、企業プレーヤーのM&Aや合従連衡が加速されることになろう。つまるところ、これからは新たなアプリケーションやサービスという種蒔きと、さらなるインフラの進化という土壌改良の両方が常に要求される――そんな時代に対応していく、質的成長を目指したステージでの事業展開を考えていかなければならない。
このような大きなうねりに伴って、キャリア垂直統合型事業モデルに代表されるような、狩猟型時代に構築された産業構造も、早晩見直しを迫られる方向にあるだろう。
図2 携帯電話における市場成長ステージ(クリックで拡大)

出典:情報流通ビジネス研究所資料 (http://www.isbi.co.jp/)
■図3は2000年4月から2004年10月における、月間ベースで見た携帯電話加入の純増数と端末出荷台数の推移である。徐々に両者の乖離が目立ち始めてきた。この傾向などにみられる通り、国内の携帯電話端末は、ユーザーの買い換え需要に支えられたマーケットへと、急速に様変わりしている。いってみれば、年間の市場規模が300万〜500万台で安定している洗濯機や冷蔵庫、掃除機といった「白モノ家電」と、同じ需要構造になりつつある。
新規と買い換えの両需要が入り混じっていた頃は、インターネット接続対応やカメラ搭載といったインパクトによって左右されることも手伝って、端末出荷数の変動は大きかった。しかしM2Mなど、ヒト以外への適用が増えていくにせよ、今後は年間ベースで4000万〜5000万台の間で市場が一定規模で推移していくだろう。2004年度については、カメラ搭載機が好調だった前年度の反動を受けて、前年割れの見込みである。
図3 携帯電話加入純増数および端末出荷台数推移(2000年4月〜2004年10月)(クリックで拡大/PDF)
単位:万台

出典:電気通信事業者協会(http://www.tca.or.jp/)
および日本電子技術産業協会(http://www.jeita.or.jp/)による統計をもとに、
情報流通ビジネス研究所作成(http://www.isbi.co.jp/)
■単なる台数ベースのマーケットは一定規模の路線であるが、インフラの高度化に伴って端末の中身は劇的に変わってきた(図4)。2005年度については、出荷数の半数以上が3Gや3.5G端末で占められるだろう。悩ましいのは、端末が高度化して(図5)一世代前のコンピュータにも匹敵するソフトウェア工数への対応などに、メーカーが悲鳴をあげている点である。携帯電話がインターネット接続機能を搭載する頃より、この問題は叫ばれ始めていたが、3G化はそのことをさらに加速させた。それまで独自のOSで対応していたメーカーだったが、ソフト開発あるいは端末そのものの開発で提携する動きに転じるとともに、汎用OSの採用に踏み切って対策を講じている。
図4 方式別で見た携帯電話端末の出荷台数推移と予測(1998〜2008年度)(クリックで拡大)

※1 1998〜2003年度は実績、2004年度以降は情報流通ビジネス研究所予測
※2 3G=CDMA2000(〜144kbps・ダウンリンクパケット・IS-95C)およびW-CDMA(〜384kbps・ダウンリンクパケット)とする
※3 3.5G=CDMA2000 1x EV-DO以上または2x以上、およびHSDPA以上とする
※4 デュアル機およびバックワードコンパチ機は上位世代機としてカウント
※5 モジュール型端末等含む
出典:情報流通ビジネス研究所「モバイルインターネット要覧2004-2005」
(http://www.isbi.co.jp/report/mi-yoran/mi2004/)
図4 端末に関わる主な技術/方向性(クリックで拡大/PDF)

出典:情報流通ビジネス研究所資料(http://www.isbi.co.jp/)
■それまで国内メーカーは、事業者の要求スペックを満たした端末を製造して事業者に納入し、基本的には端末流通や在庫管理、マーケティングといった役割は、事業者に依存するという事業形態を進めてきた。新規加入需要が多かった頃は、それはそれでよかったかもしれない。しかしながら、いまや加入者市場が機種変マーケット(買い換え需要)メインとなり、事業者の収益力も往時の勢いはない。それに従って、販売代理店への端末インセンティブ抑制など、端末流通などのコスト削減策を徹底してきた。
このような背景は、メーカーの苦しさを徐々に顕在化させることとなった。特に事業者による3G化の推進は、冒頭掲げたように、新たなビジネス創出のための付加価値プラットフォーム構築として欠かせないものだが、現状では皮肉にもメーカーの収益を押し上げる要因には、なり得ていない。メーカーにとって3G端末の製造は、海外進出への大きな橋頭堡になる――との目論見こそあれ、今までの“事業者依存”構造からの脱却は、まさに「言うは易し、行うは難し」といった状態である。
開発から端末流通まで、サプライチェーンの大部分を事業者に依存してきた“体質”は、そうやすやすと変えるのは難しい。しかし、今後インフラが3Gからさらに高度化するとともに、MNP(Mobile
Number Portability)や新規参入事業者の登場、よりきめ細かな需要層のセグメント化に向けた端末開発の必要性、といった市場環境の大きな変化に対応していくためには、事業者との関係などそれまでのスキームの見直しは避けて通れそうもない。激変に向かう事業環境のなか、今までの「しがらみ」だけでビジネスの展開を考えていくことは、楽観と表現せざるを得ない状況なのである。
3Gなど最先端の技術開発力だけでは、グローバルベンダーと伍して海外市場で競争することの困難さも学習した現在、端末事業で確たる収益をあげていくためには、国内事業者との関係性の見直しも含めた抜本的な体制や戦略の見直しが急務だと思われる。単独電話機やコードレス電話、パーソナルFAXなど、消費者向け通信機器市場において、最終的に生き残ったメーカーがおしなべて家電/AV系だったことからすれば、携帯電話も例外ではないという考え方もできる。
現在のところ、携帯電話市場については通信機器系や家電/AV系メーカーが入り混じった状態であるが、今後は通信機器系ならば端末のコア部分あるいはインフラ設備、法人市場といった事業ドメインへの選択と集中、家電/AV系メーカーであれば端末に関わるサプライチェーンをも含めた国内外事業への特化――といったように、棲み分けが起こる可能性も少なくない。
こうしたことは、基本的にメーカーのみならず、コンテンツプロバイダやSI(システムインテグレータ)といったアプリケーション/サービス事業レイヤでビジネスを展開するプレーヤにも、今後当てはまっていくだろう。いずれにせよ、狩猟型の市場ステージは終局を向かえ、これからはビジネスの種蒔きと育成、そしてさらにはその企業ならではの“特産品”を作っていく必要と必然がある。市場の母数がほぼ見えてきた以上、どうやってビジネスを質的に付加価値の高いものへと転換・醸成していくか。このことが、移動通信に関わる各企業プレーヤーに今後ますます問われようとしているのである。
(ライター:飯塚周一)

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